気のおけない仲間達と酌み交わし、語らい過ごす時間は何物にも代え難い至福のひとときだ。さてここでは、馨しいアロマを放つその琥珀色の海洋にたゆたう景色を肴に、贅沢な大人の時間を過ごす醍醐味について語りたい。

 酒は嗜好品なのだから、美味しく感じる飲み方も人それぞれだろう。これから述べることは、参考にしていただけたら幸いだ。一般的には、モルト・ウイスキー以外のウイスキーはストレートやオン・ザ・ロック、水割り、ソーダ割り、あるいはカクテルのべースなど、様々な方法で飲まれている。また、ブレンデッド・モルトやシングル・モルトはストレートが最も多く、加えるとしても多少の水程度だ。

 『ウイスキー・フロート』という飲み方をご存知だろうか。ウイスキーの飲み方のヴァリエーションのひとつで、あらかじめ適量の水が注がれているタンブラーにウイスキーを静かに加えてゆく。水とウイスキーの比重の差を利用して、2層に分離させるのだ。飲み方次第でウイスキー&チェイサーとすることもできるし、微妙な混ざり具合を楽しむことも可能だ。視覚的な楽しさも見落とせない。

 余談だが、『水割り』という名称は海外でも通用する。バーで「Mizuwari, please!」とオーダーすれば、伝統的な『スコッチ&ウォーター』が普通に出てくる。発音は“ミィズウァリ”と、英語っぽく(?)崩すと通じやすい。

 スコッチ・ウイスキーの本場スコットランドでは、モルト・ウイスキーに氷を入れることはタブーであるとされている。冷却されることによって引き起こされる香りの沈降や油分の分離などが、本来の味わいの妨げになると彼らは主張しているのだ。そう言った考え方は、日本においても極力模倣すべきだとする意見もある。こだわりを持つことは決して悪いことではないが、個人の好みと言ったものは千差万別なのだし、各々の飲み方のスタイルがあっても別に良いのではないだろうか。その点について納得の行く解釈を得るには、国々における風土の違いに関連付けて考えるのが合理的だ。例えば湿気の多い日本の夏期において、氷のもたらす清涼効果は絶大なものだ。その清涼感を優先させることを妨げるほどの意味が、果たして氷無用論にあるのだろうか。シングル・モルト・ウイスキーを、好みに応じてオン・ザ・ロックやミスト・スタイル(クラッシュド・アイスを入れる)で飲むことは、別に恥ずべきことではないと私は考える。

 スコッチ・ウイスキーのカクテルについても、少し触れておこう。スコッチ・ウイスキ一を用いたカクテルは、スタンダードなものだけでも50種類を下らない。『ロブロイ』や『ラスティネイル』のように良くできたものも中にはある。しかしその多くは、スコッチ・ウイスキーの良さを生かしきれているとは、とても思えない。ウイスキーをソーダで割る『ハイボール』は知名度・人気ともに高いカクテルだが、ストレートの美味しさを超える味には決してならない。ただ、喉を潤すための飲み物を所望するのであれば、選択肢の中に加えてやるのもいいと思う。ちなみに、最悪と言っても過言ではない組み合わせも紹介しておこう。それは『スコッチ+トニックウォーター』で、これはもうこの世のものとは思えないほど凄まじい味だ。話のネタに一度試してみることをお勧めする。スコッチ・べースのカクテルの中には、ピート香や塩味が気にならないように果汁や甘いリキュールをたっぷり加えたものもある。だが、それはすなわち天然のスコッチの旨さを殺してしまうことであり、まさに本末転倒と言うべきだ。

 ところが、バーボン・ウイスキーとなると、スコッチとは同列に語れない。バーボンとて決してニュートラルなスピリッツとは言えず、キャラクターの強さと言った面ではスコッチ・ウイスキーにも引けを取らない。にもかかわらず、何故かバーボン・べースのカクテルは概して良くできている。カクテルにおいて、バーボンとスコッチとでは互換が効かないのだ。更に『ハイボール』に関して言えば、多少垢抜けしない味である点は否めずともその完成度の高さには目を見張るものがある。

 最後に、グラスについても考察しておこう。ウイスキーを飲む際には、ストレートならばショット・グラス、オン・ザ・ロックや水割りならばロック・グラス(正式にはオールド・ファッションド・グラスと呼ぶ)を用いるのが、従来の定番スタイルだ。しかし、シングル・モルト・ウイスキーの香りを心行くまで堪能するためには、グラスにもそれなりの形を要する。口のすぼまったチューリップ型のグラスが最も適しており、これはブレンダーがノージング(香りを嗅ぐこと)に用いるグラスである。かつてはなかなか入手しづらかったが、今はインターネット等で購入が可能だ。

 なお、蛇足ながらここでこっそりテイスティング・グラスをカッコ良く持つコツをお教えしよう。差し当たっては、脚の細い部分を親指と人さし指で、もしくは更に中指を添えて持つのがよいだろう。これが最もオーソドックスで、かつ無難なスタイルである。しかしこの持ち方、ややもすると小指が立ってしまい、男性諸氏の雄々しい御手には甚だ似つかわしくないフォームを作りがちである。あまり大っぴらにやると微笑ましさを通り越して、周囲の失笑を買う可能性もある。ご婦人方が同席されている場では特に留意するよう、老婆心ながらアドヴァイス申し上げたい。ややテクニカルな持ち方として、台座の部分を持つと言う方法もある。横ではなく、手前部分を親指と人さし指ではさむように持つのがコツだ。なぜテクニカルなのかと言えば、バー・カウンターもしくはテーブルから手に、あるいはその逆の移行が片手では大変難しいからである。さり気なく反対の手で補助しよう。なおこの持ち方には、小指が立たないと言う利点があることを言い添えておく。またブランデーのスニフターのように、手のひらに包むという方法も考えられる。これはモルトの香りを高めるためには理に合ったスタイルだといえる。しかしバーなどでやるのは、まずやめた方がよい。特に初心者諸君にはお勧めできない。そのお店で慣習化されているのであれば話は別だが、よほどの“さりげなさ”が身に付いていないと大変滑稽に映るからだ。また指紋がべったり付くために、グラスの美観を損ねるうえにお店にも歓迎されない。このスタイルが我が国に根付くのには、もう少し時間がかかりそうである。嫌味なくサマになるのは、故マイケル・ジャクソン師くらいなものだろう。

 余談だが、日本語は欧米の言語に比べて、古来より香りや臭いの表現が貧しい言語だと言われている。香りの文化が欧米ほど成熟していないのだ。ウイスキー用のテイスティング・グラスはかつてはなかなか普及しなかったそうだが、理由はその辺りにも鍵がありそうな気もするのだがどうだろうか。

 家で飲むならば、お気に入りのグラスをひとつは持ちたい。できれば本来の琥珀色が判るような、薄手のクリスタル製が望ましい。部屋の中で飲むならロック・グラスでも問題はないが、香りの拡散を抑える為に、部屋の空気の流れは最小限にとどめて欲しい。ロック・グラスならば豊富なデザインで多種販売されており、選びでがある。何種類かコレクションしておけば、その日の気分によって使い分けることが可能だ。



ノージング・グラス
 形にはいくつかのヴァリエーションがあるが、大方はこんな感じだ。ベレー帽のような蓋が付いているものもある。最大の欠点は、目測では量の見当が付けられない点だろう。例えばウイスキーと水とを正確に等量で割るためには、メジャー・カップ等の器具を用いなければなかなか難しい。この欠点を補うために、目盛の印刷されたグラスもある。当サイトのグラス(申し訳ありませんが終売となりました)のように、目盛りが“裏”に回れば均整がとれていると思うのだが、目盛だけが印刷されていると、化学実験の器具のようで興醒めだ。
 なおこのグラスは、あくまで香りを利くために考案されたものなので幾分飲みにくくなってしまうが、この点は止むを得ないだろう。口を少しすぼめぎみで飲まなければならず、多少窮屈に感じてしまう。モルト・ウイスキーは、どちらかと言えば大口開けてグビグビ飲むタイプの酒ではないのだが、慣れるまでには抵抗のある向きもあるかもしれない。
シェリー・グラス
 これも形のヴァリエーションはいくつかあるが、なるべく縦長で口のすぼまっているデザインのものが望ましい。容量は大体2オンス(60ml)前後だが、できるだけ大きいものを選びたい。香りを溜める空間を少しでも広く取るためである。
コリンズ・グラス
 本来はロング・ドリンクス用のグラスだ。グラスの口はすぼまっていないが、背が高い分香りを溜めておくことができる。直線的フォルムには多少趣きを欠くことは否めないが、モダンなインテリアのバーではかえって映えるのではないだろうか。比較的きゃしゃなイメージがあるが、下の方をがっしりと掴んで飲めば、男性でも結構様になる。容量は10オンス(300ml)くらいのものが標準だ。
ロック・グラス(オールド・ファッションド・グラス)
 その名の通り、オン・ザ・ロックスで供する際に用いるグラスである。また、カクテルのオールド・ファッションドに用いることから、この名がある。容量は6オンス(180ml)くらいが標準だが、男性の手には大きめの方が似合う。