Glenkinchie
甘い草の香りと麦芽の風味、「グレンキンチー」

ローランド地方の広大な牧草地を思わせる草の香りと、すっきりとしてまろやかな麦芽の甘み。グレンキンチーは、そんなキャラクターをもったシングルモルトです。オフィシャルボトルはかつては10年物が出されていましたが、2007年から12年熟成に変更されました。以前の10年物には軽いピート香が感じられたのですが、12年ではピーティさはまったくなくなり、さらに甘さとまろやかさが際立つ風味になっています。飲み方はストレートでももちろん美味しいですが、食前酒としてハイボールや水割りでいただくのもいいですね。

グレンキンチー蒸留所では年間170万リットルものウイスキーを生産していますが、シングルモルトとしてボトリングされるのはそのわずか10%ほどです。あとの90%は、ジョニーウォーカーやヘイグ、ディンプルなどのブレンデッドウイスキーの原酒として使われます。特にディンプルでは、グレンキンチーが中核をなすメイン原酒としてブレンドされています。ブレンデッドのメイン原酒はハイランドやスペイサイドモルトであることが多いので、ちょっと珍しいですよね。

グレンキンチーのラベルには、「エディンバラ・モルト」と記されています。蒸留所があるのはスコットランドの首都エジンバラから、24キロメートルほど南東の大麦畑の広がる丘陵地です。エディンバラから自転車ならわずか30分ほどの距離ということもあり、年間10万もの人々が訪れているそうです。特に毎年8月に開催されるアートフェスティバルの期間中には、いつにも増して多数の人々で賑わう観光の名所としても知られています。また蒸留所には博物館が併設されていて、6分の1サイズの蒸留所の模型や貴重な資料が展示されていることも、観光客に人気がある理由なのでしょう。

ローランド地方の蒸留所は、20世紀末にはオーヘントッシャンとこのグレンキンチーのわずか2か所にまで減ってしまいました。ですが2000年のブラドノック蒸留所復活を皮切りに、ローランドモルトの勢いが戻ってきているように感じられます。2003年にダフトミル、2007年にはアイルサ・ベイと新蒸留所が次々と建造されました(なおダフトミル蒸留所は農家の余技的な色彩が強く、ウイスキーは一般販売されていません)。また現在、1920年に閉鎖されたアナンデール蒸留所を復活させる計画が進行中ですし、ローランドモルトはこれから面白くなりそうです。


Copyright © 1998- Muneyuki Yoshimura. All rights reserved.