Glen Grant
ヘーゼルナッツと草原の香り、「グレン・グラント」

イタリアで人気ナンバーワンのシングルモルトといえば、このグレン・グラントです。面白い現象ですが、ヨーロッパの名だたるワインの生産国は、一方でウイスキーの大消費国であるケースが少なくありません。フランスはもちろんのこと、イタリア、スペインなどは、ウイスキーの輸入国ランキングで毎年上位に顔を出しますね。そしてイタリアでは、シングルモルトといえばグレン・グラントを指すほど、国民に親しまれたウイスキーなのです。

その理由ですが、まだハイランド地方以外ではシングル・モルトの存在があまり知られていなかった頃、イタリアのバーで飲める唯一のシングルモルトだった時代があるのです。グレン・グラント蒸留所の創業者のひとり、ジェームズ・グラントは、もともと政治家でもありました。彼はスペイサイドからイングランド方面への鉄道を敷き、自社のウイスキーを大量に輸出したのです。

グレン・グラント蒸留所は、かつてはぺルノ・リカール社が所有していました。シングルモルトばかりでなく、同社のブレンデッドウイスキーの重要な原酒の一つでもあったのです。ですが2006年に、イタリアのカンパリ社によって買収されました。おそらく、自国でのグレン・グラント人気を当て込んでという理由もあったのでしょうね。カンパリ社は他にスコッチの蒸留所をもっていませんし、このニュースは関係者やウイスキーファンの間でとても話題になりました。

グレン・グラントの風味は軽やかで、ヘーゼルナッツ、草原、ハーブなどのニュアンスが感じられます。特に熟成年数の若いものは、アペリティフにはぴったりです。水割りやハイボールにするのもいいですし、カクテルのベースとしても使えます。一方熟成年数の長いグレン・グラントは、しばしばインディペンデントボトラーから出されます。シェリー樽で熟成させた濃厚な風味のものが多いので、こちらは食後酒としてストレートでじっくり楽しみたいところです。

蒸留所があるのはスペイ川下流の町ローゼスです。この町ではかつて5つの蒸留所が操業していましたが、2003年にキャパドニックが閉鎖されたため、現在は4か所になってしまいました。キャパドニックは、グレン・グラントの弟分として建造された蒸留所です。グレン・グラントと同じ原料、同じ仕込み水を使っているのにもかかわらず、ウイスキーのキャラクターが違っているのはとても興味深いですね。


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