Allt-A-Bhainne
モダンで繊細な味わい、「アルタベーン」

アルタベーンというシングルモルトは、オフィシャルボトルが発売されていないためご存じない方も多いかもしれませんね。でもブレンデッドスコッチのシーバスリーガルの原酒のひとつだと言えば、その風味の輪郭を想像できる方もいらっしゃるかと思います。シーバスリーガルのあのシルクのように柔らかな酒質は、このアルタベーンを始めとする繊細なスペイサイドモルトに因るところが大きいのです。

風味はとてもとてもデリケートなのですが、シトラス系の爽やかさとナッツやバニラの風味がとても心地よく感じられます。ただデリケートであるが故に、自己主張が強い他のシングルモルトに鼻や舌が慣れてしまっている方には、このアルタベーンはちょっと物足りなく感じられるかもしれませんね。

この蒸留所の歴史はまだ浅く、創業されたのは1975年です。シーバス・ブラザーズ社がブレンデッドスコッチの原酒確保を目的に、長年培ってきた技術の粋が集めてオープンさせたのが、このアルタベーン蒸留所です。アルタベーンについて語るとき、同じような経緯で1973年に建造されたブレイズ・オブ・グレンリヴェット(現在はブレイヴァルと改名されています)蒸留所がよく引き合いに出されますが、同じスペイサイドモルトでありながらそのキャラクターはある意味対照的でとても興味をそそられます。

蒸留所があるのは、ベンリネス山のふもとにあるグレンリネス村です。前回紹介したアベラワー蒸留所もベンリネス山の近くでしたが、アルタベーンは山の反対側(南側)に立地しています。また仕込みに利用する水は、ベンリネス山から湧き出る泉を源とするスカラン川とローワントゥリー川から引いています。グレンリネス村はウイスキーの町として有名なダフタウンから数キロメートルほどしか離れていないのですが、水源の違いのせいなのでしょうか、アルタベーンにはダフタウンの町で造られるモルトにはない透明感と上品さがありますね。

アルタベーンとはゲール語で“ミルクの小川”を意味し、蒸留所の近くを流れるアルタベーン川にその名は因んでいます。なお、“ミルクの”という表現はただの比喩ではなく、農夫たちが搾乳した後の桶などをこの川で洗っていたためその名がついたとも言われているんですよ。

アルタベーンは風味が比較的ニュートラルであるため、食事に合わせやすいシングルモルトです。少し加水すれば、食中酒としてもいけますね。ボディも軽いので、和食と合わせるのも面白いと思います。


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